『罪と罰』は19世紀ロシアの代表的な作家ドストエフスキーの長編小説。1866年に公刊された。ドストエフスキー自身の代表作であるとともに、近代ロシア文学の代表作として知られる。この記事では、あらすじを紹介する。
『罪と罰』のあらすじ
物語の舞台は19世紀なかばのサンクトペテルブルクである。主人公は貧しい学生のラスコーリニコフである。彼はプライドが高く、知的だが、貧しく、まともな食事を取っていない。粗末なアパートの最上階の部屋に住んでいる。
ラスコーリニコフは病的な思索にふけっている。この世の中にはナポレオンのような特別な強者が存在する。そのような一握りの人間だけが、社会の道徳を守らず、それを踏み越える権利をもつ。ラスコーリニコフはこう考え、自身もその一人だと思い込む。そして、実際の道徳のルールを超え出ようと思いつく。
ラスコーリニコフは質屋の婆さんをその標的に選ぶ。まず、その質屋を訪れ、父の時計を質に入れて金を受け取る。
ラスコーリニコフは酔っぱらいのマルメラードフと出会う。 マルメーラードフはラスコーリニコフに家族の問題を話す。妻カテリーナは病弱であり、娘ソーニャは生計を立てるために売春をしている。 ラスコーリニコフはマルメーラードフのアパートまでついていき、彼らの劣悪な生活の様子をみる。
翌日、ラスコーリニコフは母手紙を受け取る。ラスコーリニコフは妹のドゥーニャがルージンという役人と婚約したことを知る。妹と母がサンクトペテルブルクに引っ越してくることも知る。さらに、近いうちにルージンと会う予定になっている。
ラスコーリニコフは町中で、上述の質屋の婆さんの悪い評判を聞く。さらに、翌日、婆さんと同居している妹が不在になることを知る。ラスコーリニコフは翌日に計画を実行しようと決める。
翌日、ラスコーリニコフは犯行を決行する。質屋の婆さんを殺害し、強盗を行う。思いがけず、婆さんの妹がそこにやってくる。ラスコーリニコフは彼女をも殺す。他の客が質屋を訪ねてくる中で、ラスコーリニコフはどうにかそこから逃亡し、自宅に戻る。
かくして、ラスコーリニコフは自分を特別な強者の一人だと考え、殺人と強盗によって社会の道徳的ルールを踏み越えた。だが、それらの罪の意識に押し潰されそうになっていく。
翌日、ラスコーリニコフは証拠隠滅を図る。犯行の証拠となるようなものが残っていないか探す。奪った金品を中庭に隠す。
このとき、ラスコーリニコフは警察から呼び出しを受ける。アパートの大家から費用の支払いを催促されたためである。だが、警察署で婆さんの殺害事件が話題になった時、ラスコーリニコフは気を失ってしまう。
その後、自宅のベッドで、熱にうなされる日が続く。友人のラズミヒンらが世話をしてくれる。医者や刑事が訪ねてくる。ラスコーリニコフは婆さんの殺人事件の話題にたいして過敏に反応する。
母の手紙に書かれていたように、妹の婚約者ルージンがラスコーリニコフを訪ねてくる。だが、ラスコーリニコフはルージンと対立し、妹との結婚を認めないという。
ラスコーリニコフは警察の職員と婆さんの殺人事件について話した後、衝動的に質屋のアパートを訪ねる。
自宅に戻る途中、酔っ払いのマルメーラードフが馬車に轢かれているのを発見する。 ラスコーリニコフは彼をアパートまで運ぶ。だが、マルメーラードフは死んでしまう。葬儀代として、ラスコーリニコフは彼の妻と娘ノソーニャに多額の金を渡す。これは自身の母と妹から受け取ったものだった。
ラスコーリニコフが自宅に戻ると、母と妹がきている。ラスコーリニコフは二人にたいして苛立ちを示し、妹にはルージンとの結婚を認めないという。そして二人を部屋から追い出す。
翌日、友人ラズミヒンがラスコーリニコフの母と妹を伴って、ラスコーリニコフの自宅を訪れる。当初、ラスコーリニコフの精神状態は安定しており、昨日の非礼を詫びる。また、大金をマルメラードフの妻に渡したことを伝える。だが、ふたたび苛立ち始め、妹の結婚を認めないという。
妹は夜にルージンと会う約束があるので、ラスコーリニコフにも来るよう頼む。ラスコーリニコフは承諾する。
ラスコーリニコフは、質入れした時計を取り戻すためという理由で、判事ポルフィリーを訪ねる。ポルフィリーが婆さんの殺人事件を担当している。ラスコーリニコフは彼と殺人事件について話し合う。ラスコーリニコフはポルフィリーによって、犯人だと疑われていると感じる。
ラスコーリニコフは自宅に戻る。休んでいると、スヴィドリガイロフという男がやってくる。彼は妹ドゥーニャのかつての雇い主だった。ドゥーニャに恋をしており、ドゥーニャを追いかけてやってきた。彼はドゥーニャとルージンの婚約を解消するようラスコーリニコフに頼む。そのために大金を払うと約束する。ラスコーリニコフはこれを断る。
その後、ラスコーリニコフは友人ラズミヒンとともに、母とドゥーニャとともに、ルージンと会食する。雰囲気が険悪となり、ルージンが一家を侮辱する。婚約が解消される。
ラズミヒンはドゥーニャに恋をしていた。同時に、警察がラスコーリニコフを犯人だと疑っていることを知る。彼自身もラスコーリニコフが犯人だろうと推察する。ドゥーニャと母にたいし、事件のことをいわずに、いつでもラスコーリニコフを助けると約束する。
ラスコーリニコフはソーニャを訪ねる。ソーニャはラスコーリニコフに、新約聖書のキリストによるラザロの復活の部分を読み聞かせる。二人の会話を、上述のスヴィドリガイロフが盗み聞きする。彼はソーニャの隣人になっていた。
翌日、ラスコーリニコフは警察署で刑事のポルフィリと会う。事件をめぐって話し合い、二人は対立する。そこに、事件の真犯人を知っているという証人がやってくる。ミコライという人物が入ってきて、自分が犯人だと告白する。ポルフィーリイとラスコーリニコフは困惑する。ラスコーリニコフはその場を立ち去る。
他方、ルージンはマルメーラードフの葬式に招待される。ソーニャを呼び出し、10ルーブルを与える。だが、これは罠だった。
葬式では、マルメラードフの招待客はまばらである。ラスコーリニコフ以外は、まともな客ではなかった。ルージンが葬式にやってくる。ソーニャがルージンから100ルーブルを盗んだと騒ぎ始める。ソーニャはソーニャはそれを否定するが、ポケットから100ルーブル紙幣が発見される。
だが、ルージンがソーニャのポケットにその紙幣を入れたという証言がでてくる。ルージンは罠を暴露され、追い出される。だが、マルメラードフの妻はアパートの大家と口論になる。
ラスコーリニコフはソーニャを訪ねる。自身が老婆とその妹を殺害した犯人だと告白する。ソーニャは驚き、なぜそのようなことをしたのか問いただす。この会話は、隣人のスヴィドリガイロフに盗み聞きされる。
その時、ソーニャの母が精神的におかしくなり、街頭で子どもたちと物乞いしているという知らせが入ってくる。ソーニャはあわてて母たちを探しに行く。ソーニャの母は警官と衝突し、まもなく没する。
スヴィドリガイロフがそこにやってくる。彼は裕福であるため、彼女の葬儀と子供たちの世話の費用を出すと申し出る。
さらに、スヴィドリガイロフは、ラスコーリニコフとソーニャの会話を聞いていたと知らせる。つまり、ラスコーリニコフが犯人だと知っている、と。この秘密を利用して、ドゥーニャとの結婚できるようラスコーリニコフに求める。
ラスコーリニコフはあてもなく街を歩く。自宅に戻ると、ラズミヒンが訪ねてくる。刑事ポルフィーリーもやってくる。ポルフィリーはラスコーリニコフが犯人だと考えていると伝える。だが、決定的な証拠はないともいう。刑を軽くするために、自白を彼に勧める。
その後、ラスコーリニコフはスヴィドリガイロフと会う。彼はドーニャを諦めて、若い女性と婚約したという。二人は別れる。
だが、スヴィドリガイロフはドゥーニャを諦めていなかった。彼女を自室に連れ込む。そこで強姦しようとする。だが、ドゥーニャはピストルで反撃する。銃弾は当たらなかった。だが、スヴィドリガイロフは自身がそれほど嫌われているのを知り、彼女を去らせる。ドゥーニャに3千ルーブルを遺して自殺する。
ラスコーリニコフは自宅に戻り、ドゥーニャに殺人の罪を打ち明ける。自首を促される。母には殺人の罪を教えず、ただ愛しているといい、別れを告げる。
ラスコーリニコフはソーニャを訪ね、ソーニャから十字架を受け取る。いよいよ、自首するために警察署に向かう。途中、地面にキスをする。 警察署に着いてスヴィドリガイロフの自殺を知る。もはや自首する必要はないかもしれないと思う。だが、ソーニャの姿を見て、刑事に自白する。
ラスコーリニコフはシベリアでの8年間の重労働という判決を受ける。シベリアで服役する。母はその知らせを聞いて、ショックで亡くなる。ドゥーニャはラズミヒンと結婚する。
ソーニャはシベリアの刑務所近くに引っ越してくる。 ラスコーリニコフにしばしば面会し、更生を手助けする。新約聖書を手渡し、これがラスコーリニコフの高慢な態度を和らげていく。ラスコーリニコフはソーニャへの真の愛情に気づき、より人間的な人物に変わっていく。