50音順の記事一覧・リストは「こちら」から

松尾芭蕉:江戸の俳聖

 松尾芭蕉は江戸時代前半の俳人(1644ー1694)。元禄文化の代表的人物の一人として知られる。代表作には、『奥の細道』などがある。名句のみならず名文でも知られる。実は伊賀の忍者だったという説など、まだまだ謎の多い人物である。現在は芭蕉の俳句は世界的に人気がある。

芭蕉の生涯

 芭蕉は伊賀上野(現在の三重県)で農家の家に生まれた。ただし、侍と同等扱いの農民階級であり、藤堂藩に仕えた。芭蕉は藤堂良忠に仕えた。ともに、北村季吟の俳諧を学んだ。その際に、芭蕉は宗房と名乗った。1666年に良忠が没したので、兄の家に移った。

 俳人としての活躍:『奥の細道』

 1672年、芭蕉は天満宮に三十番句合の『貝おほひ』を奉納した。その後、江戸に下った。日本橋付近に居を構えた。この時期は、談林の俳諧に影響を受けた。他の俳人との交流をもち、弟子をとるようにもなった。ただし、俳諧で生計を立てられたわけではなかった。1679年には中国の詩や思想にも関心を抱き、影響を受けるようになった。

 1680年、芭蕉は深川六間堀に引っ越した。新たな居宅を芭蕉庵と呼び、自らは芭蕉翁と呼ばれた。俳諧の道に邁進した。

 1684年、芭蕉は放浪の旅にでた。まず、『野ざらし紀行』が出来上がった。その後も旅に出て、各地の俳人と交流をもつこともあった。それが芭蕉七部集の『冬の日』や『春の日』などに結実した。

 1689年、芭蕉は旅に出た。江戸から日光へ、宮城の松島、岩手の平泉へと北上していった。その後、南西に移動して山形の山寺へ、さらに西へ移動して新潟へ、そして金沢に移った。さらに福井の敦賀や大垣に至った。

 この東北旅行によって、『奥の細道』が生みだされた。「閑さや岩にしみいる蝉の声」などで有名な芭蕉の代表作である。また、各地での交流は適宜行われており、七部集の一部として公刊されていった。

 晩年

 1691年、芭蕉は江戸に戻った。体調を崩し、静養をとった。1694年には、生涯最後の旅に出た。「秋深き隣は何をする人ぞ」などの句を詠んだ。同年10月、大坂で病没した。辞世の句は「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」である。

 芭蕉の大成と大衆文化

 芭蕉によって、俳句あるいは俳諧は大いに発展した。とはいえ、芭蕉がその発明者だったわけではない。俳句集といえそうな著作は15世紀末頃には登場していた。
 さらに、芭蕉の俳諧の大成を可能にしたのは、江戸初期の大衆文化の成立だった。徳川幕府が平和をもたらし、江戸などで都市商人が繁栄した結果、大衆文化が広まっていった。詩歌もまた大衆化していった。
 詩歌はそもそも貴族の短歌や武家の連歌のように、平民が嗜むものではなかった。だが、江戸時代に入る頃には、一部の詩人たちは詩のルールを緩和し、より口語的、俗語的、さらには下品な表現を許容するようになった。 その結果、詩歌の大衆化が進んでいった。
 中世から、詩を詠む人たちはその交流や発表の場をもった。そこでは、座や家元のような制度が成立した。師匠を中心とした流派がいろいろと形成された。
 俳諧も同様だった。江戸時代初期には、俳諧の人口が増えた。師匠たちの個人的なネットワークが広がった。芭蕉の『奥の細道』の徒歩の旅では、1680年代に江戸で芭蕉に師事した各地の弟子たちのもとに滞在することができた。
 さらに、芭蕉は大衆文化の賜物として商業印刷から大きな恩恵をうけた。俳句集が出版され広まることによって、日本中の人々が俳句を楽しみ、俳句を制作するようになった。このようにして、俳諧の愛好者の輪が江戸を超えて広がった。その結果、たとえば、芭蕉が旅先で俳句愛好者と交流をもち、刺激を与えあうことができた。
 このように、芭蕉の大成は江戸の大衆文化の発展に支えられたものだった。

 芭蕉の俳句

五月雨を集めて早し最上川

夏草や兵どもが夢の跡

おもしろや今年の春も旅の空

行く春や鳥啼き魚の目は泪

田や麦や中にも夏のほととぎす

風流の初めや奥の田植歌

雲の峰いくつ崩れて月の山

荒海や佐渡に横たふ天の河

あかあかと日はつれなくも秋の風

憂きわれを寂しがらせよ秋の寺

松尾芭蕉の肖像画

松尾芭蕉 利用条件はウェブサイトで確認

葛飾北斎による芭蕉

葛飾北斎による芭蕉 利用条件はウェブサイトで確認

☆松尾芭蕉の観光地:山形県の山寺

 芭蕉に関する観光スポットとしては、山形県の山寺(やまでら)がおすすめだ。上述のように、山寺は芭蕉が東北旅行で訪れた風光明媚な場所である。山の斜面に寺が建造された場所である。ここで、有名な「閑さや岩にしみ入蝉の声」の句を読んだ。

 また、周辺には、山寺芭蕉記念館がある。芭蕉にかんする様々な資料が展示されている。

●アクセス
・東京駅から山寺へ
→新幹線と在来線で3時間程度

 松尾芭蕉の代表的な作品

『野ざらし紀行』(1685)
『更科紀行』 (1688)
『幻住庵記』 (1690)
『嵯峨日記』 (1691)
『奥の細道』(1693頃)

おすすめ参考文献

高橋英夫『西行と芭蕉』河出書房新社, 2022

Gary P. Leupp(ed.), The Tokugawa world, Routledge, 2022

山梨県立大学の芭蕉俳句データベース

https://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/basho/haikusyu/Default.htm

タイトルとURLをコピーしました